「こぐこぐ自転車 / 伊藤正」を読む

晦日、大掃除は適当に、もはや、のんびりモード。読書タイム。読んだのは

こぐこぐ自転車/伊藤礼

文章が酒脱な自転車エッセイ。著者は古希にして、かくしゃくと自転車を乗りこなす。回りを見る視点は時に斜に構えつつ、しかし、決して嫌みでない。仲間を募り、房総へ、北海道へ、あるいは軽井沢の先を目指す。年齢なりに決して無理をしない。と見えて、実は、なかなかのチャレンジャー。
自分は土地勘があるので想像がつくのだが、脚力の養成を志して、自宅のある久我山から新宿まで自転車で往復したというくだり。その事自体は、別に、自分と似たような感覚で都内を自転車で走っているのだなぁと思っただけなのだが、驚くのは甲州街道を走ってきて環七と交差する大原交差点を通過する所。

「気合が入っているときにはトンネルを通る。いまいちというときはおとなしく交差点を信号で渡る。」

って。えぇ〜。ここは自分もしょっちゅう、通過するので、現場が想像出来るのだが、ちょっと、ありえない。
大原交差点の手前の甲州街道は片側四車線。一番左側が左折車線、二番目は右折車線、三・四番目が交差点の下を潜り真っ直ぐ新宿に向かう本線になっている。だから、自転車が自動車と一緒に環状七号線の下を潜り抜けようと思ったら、道路の左端を走りながら、後方を確認しつつ、一気に二車線を横切って(!)、三番目の車線の左端を決死の思いで進むという行動が必要とされるのである。いくら「気合が入っているときには」とはいえ、そんじょそこらの気合では、ナカナカ、出来ないと思う。
大昔、中高生の頃(はっきりとは覚えていない)、イキオイで赤坂見附の交差点の立体交叉を越えてしまった事がある。国会議事堂の前から246に入り青山方面へ。下り坂でスピードに乗って走っていたらいつの間にか自動車と一緒に中央車線を走っていた。運転免許取り立てのドライバーが流れで首都高の入口に入っちゃうような感じ。この時は、出た所で丁度、おまわりさんが待っていて、止められた。おまわりさんは笑いながら、しょうがないなァ、といった感じで、あそこは自転車は走っちゃ駄目だと注意しただけで許してくれた。
また、去年、四谷、麹町と、トゥームレーダーのアンジェリーナ・ジョリー似の外国人女性と抜きつ抜かれつしていたら、彼女が半蔵門の手前で、一気に道路の左端から中央寄りの車線右折車線に侵入したのについて行けず、離されてしまった。
大原交差点で環七の下を潜るというのは、難易度からいうと、上記二つの例より、上だと思う。
この本を読んだ後、改めて、現場を見に行った。「荷車と自転車は通行禁止」という標識は確かに見当たらない。でも、ここを自転車で走ろうとは、「かなり」「相当」、気合が入っていないと思わないだろうという事を再確認した。
ちょっと、都内に交通量の少ない、正月かお盆の天気の良い日に、恐る恐る、やってみようか・・・な。
そんな、ちょっと凄い事も、さらっと軽い感じに描かれている、面白いエッセイだった。